研究の内容の概要

研究テーマ:文化心理学の観点から、日本神話の分析を通して日本文の心理について研究し、その中で主なテーマは自己構造の文化心理論であり、とりわけ思考・コミュニケーションの媒体についての実証的研究及び応用的研究を行っている。

1990年代に入ってから心理学が大きな転換期を向かえ、それまでに普遍的だと思われていた人間の心理は文化に大きく影響されていると論じられるようになった。集団力学(Hofestede, 1980; Triandis, 1994)・自己意識(Markus & Kitayama, 1991; Heine, 1999; 武本, 2003)・認知(Nisbett et al., 2001)・説得方法(Aaker, Maheswaran, 1997等)・コミュニケーション・スタイル(Leung,1997等)における実証的研究の結果を受け、人間はそれぞれ生まれ育った文化によって異なった心理的構造があると論じられ、文化と心理的との相互影響についての理論が唱えられてきた。文化心理学者は、心理学の基本的関心と姿勢と合わせ、従来の文化人類学的・精神分析的日本論(Benedict, 1946; 土居健朗, 1971; 岸田秀, 1985; 浜口恵俊, 1982等)からヒントを得、アンケート調査(Cousins,1998)・行動サンプリング(園田&ロイヤス, 1998)・実験(Heine et al., 2000)に基づいてより実証的に日本文の独自性を解明しようとしている。さらに、研究の出発点として、「出る杭が打たれる」などの諺(Markus & Kitayama,1991)・儒教(Nisbett et al., 2001)・仏教(Kitayama et. al, 1997)などの東洋思想を取り入れる研究者がいる。

私は神道の思想の分析から出発した。岡山大学での留学期間中に神社神道について勉強し、1994-1996の間、野村暢清教授の指導を受けて日本神話の構造分析を行い、日本神話における鏡像と言語に対する観念についての理論をロイヤス(1995, 1996)として発表しました。1996年から園田直子や稲永和豊の指導を受けながら、この研究に基づいて前述した理論を文化心理学的に展開し応用してきした。

私の研究の最も中心的な課題は日本文化の主要自己表象媒体である。「自己表象」というのは、自分自身を自他に対してどのように表権するかということです。社会心理学のシンボリック相互作用論(Coolely, 1902; Mead, 1934)や精神分析理論(Lacan, 1966)に基づいて、思考・認知・自己意識は社会コミュニケーションの延長線上、社会相互作用によって形成されると考える。この考え方は文化心理学(Kitayama & Ishii, 2002)や異文化コミュニケーション(Hall,1959)によって共有されている。欧米の多くの学者(Mead,1934; Lacan,1966等)は、人間の自己の形成は自己物語(self narrative)の形成に伴う一人称との同一感を前提にしていると論じた。また、このよな物語としての自己に同一感を持つためには、「超自我」(Freud, 1965/1933)「一般的他者」(Mead,1934)「大文字の他者」(Lacan,1966)「宛先」(Hermans & Kempen, 1993)などという他者を心の中に取り入れると論じられている。しかし、これらの理論に見られる他者は、極めて言語的であり、言語・聞き手の機能をもっていると主張されます。
 一方、日本人論(土居健朗, 1971)・異文化コミュニケーション(Hall, 1959)・最新の文化心理学研究(Kitayama & Ishii 2002, Kim 2002)では日本及びアジア人は、言葉によらないコミュニケーションや思考を重視することが指摘されている。また、私の神話の分析からすれば、日本人の究極の他者は視覚や心像の世界に想定されていると思われる。そこで、私の研究はで、日本人が心像中心的な自己をもっているという仮説を実証してきた。この問題に取り組む最初の研究(Sonoda, Leuers 1996)では、日本人の文脈依存性は社会的依存性によるものではなく、想像的背景に依存していると論じた。さらに、(Leuers & Sonoda, 1999)では、独立的自己と相互依存的という区別を自己物語の問題として捉え、欧米人の特徴的自己物語は言語的で一般的な他者の形成に依拠していると論じた。日本人の独自的自己意識が、自己表現写真(ロイヤス=武本&園田,1998Sonoda & Leuers, 2000)とコラージュ(園田&ロイヤス=武本,1998Leuers & Sonoda1999b)という自己表現において現れることを実証した。この理論を、時間的展望(Sonoda & Leuers, 2000)・日本文化(武本, 2000)・英語教育(武本、2003)・精神療法(Takemoto & Inanaga, 申請中)という分野で応用してきた。時間的展望では、日本人は言語的な将来説明が曖昧で明るくないが、映像的な表現となれば欧米人よりも明るいことが確認されてる(Leuers, Sonoda 2000)。更に欧米の「お話治療」言われる精神分析に対して、日本発生の内観療法が「想像治療」であると考えられる(Takemoto & Inanaga, 申請中)。また、英語教育において日本人にとっての言語取得の問題は、英語の難しさである以前に、言語という馴染みのない自己表彰の媒体が問題になっている論じ、解決策をいくつか提案している。
 現在進行中の研究には、文化心理学者のハイネ(Heine et. al, 2001)と一共に、鏡の前の日本人とカナダ人の行動(園田・ロイヤス他,1997)をより詳しく実験的に調べている。

私の研究の流れは以上説明した通りだが、それそれの論文については業績一覧表の要約をご参照ください。

参考文献

Aaker, Jennifer and Durairaj Maheswaran (1997), "The Effect of Cultural Orientation on Persuasion," Journal of Consumer Research, 24 (December), 315-328.

Benedict, R (1946). The Chrysanthemum and the Sword: Pattern of Japanese Culture. Houghton Mifflin.

Cooley C. H. (1902) The Looking-Glass Self in Human Nature and the Social Order. New York: Scribner's.

Cousins, S.D. 1989 Culture and self-perception in Japan and the United States. Journal of Personality and Social Psychology, 56, 124-131.

Freud, S. (1965). New introductory lectures on psychoanalysis (J. Strachey, trans.). New York: Norton. (Original work published 1933)

Hall E. T. (1959)The Silent Language. Garden City: Doubleday & Co.

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Hermans, H. J. M., & Kempen, H. J. G. (1993). The dialogical self: Meaning as movement. San Diego, CA: Academic Press.

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Kitayama, S., Markus, H. R., Matsumoto, H., & Norasakkunkit, V. (1997). Individual and collective processes in the construction of self: Self-enhancement in the United States and self-criticism in Japan. JPSP, 72, 1245-1267.

Lacan, J. (1966) Écrits Paris, Seuil

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Leuers, Timothy R.S. & Sonoda, Naoko (1999). Independent Self Bias in Progress in Asian Social Psychology, Volume II: Theoretical and Empirical Contributions, edited by Toshio Sugiman, Minoru Karasawa, James H. Liu and Colleen. Ward. Kyoyook-Kwahak-Sa Publishing Company, Korea Pp. 87-104

Leung, K. 1997. Negotiation and reward allocations across cultures. In P.C. Earley and M. Erez (eds.)

Markus, H.R., & Kitayama, S. (1991). Culture and the self: Implications for cognition, emotion, and motivation. Psychological Review, 98, 224-253.

Mead, G. H (1934) Mind, Self, and Society. Chicago: University of Chicago Press.

Nisbett, R. E., Peng, K., Choi, I., & Norenzayan, A. (2001). Culture and systems of thought: Holistic vs. analytic cognition. Psychological Review, 108, 291-310.

Triandis, H. C. (1994). Cross-cultural industrial and organizational psychology. In H. C. Triandis, M. D. Dunnette, & L. M. Hough (Eds.), Handbook of industrial and organizational psychology (Vol. 4, pp. 103-172). Palo Alto, CA: Consulting Psychologists Press.

ロイヤス(武本)ティモシー・園田直子 『心像的自己概念に関する比較文化的研究(1)』 日本心理学第62回大会口頭発表(東京学芸大学)(19981010日) 

園田直子Leuers, T & Roffer, W. 『心像的自己概念に関する比較文化的研究(2)』、日本心理学第62回大会口頭発表抄録、1997

園田直子・ロイヤス(武本)ティモシー『心像的自己概念に関する比較文化的研究(2)』日本心理学第62回大会口頭発表(東京学芸大学)19981010
園田直子・武本ティモシー 日常行動サンプリング法による大学生の時間的展望と目標の分析共同『久留米大文学部紀要人間科学編』第12号 1998

土居健朗 甘えの構造 土居健郎 弘文堂1971

岸田秀著『幻想の未来』  東京 : 河出書房新社, 1985
浜口恵俊「間人主義の社会 日本」日本東洋経済新報社、1982